ビットコインの価格が成立している理由について
ビットコインおよび同型の仮想通貨は、設計・実装の水準においては完全に複製可能である。ソースコードとプロトコル仕様は公開されており、同一のアルゴリズム、同一のルールセット、同一の形式的挙動を持つチェーンは理論上いくらでも生成できる。この意味において、ビットコインは物理的・法的・生産的制約に基づく代替不能性を内包していない。唯一性は設計には含まれていない。つまり、BITCOIN2やBITCOIN3のような同一仕様の別チェーンがいくつも作られても論理的にはおかしくはない。
しかし、この代替可能性は静的・構造的な意味に限られる。現在進行形の状態まで含めて、即時に代替可能であることを意味しない。現行のビットコインは、その時代に利用可能な計算機資源の相当部分が、継続的かつ分散的に投入されている状態にある。この結果として、同型チェーンが同時代に立ち上がったとしても、リアルタイムでこれを置き換えることは困難である。ここで成立している非代替性は、初代性や内在的価値によるものではなく、「今この瞬間も計算資源が張り付けられている」という状態依存的事実にのみ由来する。現在の世界の計算機資源を前提として、今からBITCOIN2やBITCOIN3を立ち上げれば、ネットワーク全体の計算量が小さいため、既存の計算資源を持つ攻撃者に対して容易に優位を奪われ得る。
ビットコインが価値の根拠として語られる分散性、希少性、検閲耐性といった特性は、誕生時から技術的機能として実装されていた点では事実である。しかし、機能が存在することと、それが価値を正当化することは論理的に独立である。これらの特性が価値説明として前面に出てきたのは、価格形成と資金移動がすでに発生した後であり、因果の向きは「機能が価値を生んだ」というよりも、「価値が形成された後に、機能が意味づけられた」と理解する方が整合的である。
価値形成の実際の起点は、初期の資金移動と取引の発生にある。当初、仮想通貨はほとんど評価されておらず、注目もされていなかった。その結果、攻撃インセンティブも低く、合意形成が破壊されない「貴重な時間帯」が偶然に生じた。この期間において、局所的な利用と緩やかな拡大が可能となり、自己参照的な循環――すなわち「買われているという事実が価値のように振る舞う状態」――が成立した。現在のビットコインは、この不可逆な経路を通過した結果として存在している。この経路全体は再現不能であり、その意味で事後的に希少である。つまり、そのアルゴリズムやシステムだけではなく、攻撃者をかわしながら初期の不安定な時期を突破したことの希少性が、現在のビットコインの価値を支えているのである。こうも言い換えられる。分散性、希少性、検閲耐性を備えつつ、現在のビットコインと同程度の安定性をもつ仮想通貨を、現時点から再構築することは困難なのである。
同型仮想通貨の多くが、技術的には同等あるいはそれ以上でありながら小規模に留まった理由も、質的差異ではなく初動条件の差によって説明できる。初期の資金移動とモーメンタムが十分に発生しなければ、自己正当化の循環には入れない。規模の差は必然的優劣ではなく、履歴依存的結果である。その結果、ビットコインは唯一無二とは言わないまでも、それに極めて近い性質を帯びた資産クラスであると言える。
一方で、ビットコインは即座に破綻するほど脆弱な合意装置でもない。ビットコインは PoW(Proof of Work、計算作業量に基づいてブロック生成権を決める合意方式)を採用しており、その安全性は絶対的な計算能力ではなく、攻撃者とネットワーク全体との相対的な計算量の比率によって決まる。十分に分散した計算機資源が存在し、その分布が連続的に変化する限りにおいては、実用的な安定性を持つ。現行のビットコインは、現代の計算機資源水準において、破壊には現実的コストを要する状態にある。この意味で、ビットコインは「今は成立している」。
しかしこの安定性は構造的保証ではない。PoW型合意は、計算機資源の増加が緩やかであり、かつ非対称的な急増が生じないことを暗黙の前提としている。非連続的な技術ジャンプ、たとえば量子計算資源の局所的実用化のような事態が生じれば、この世代のビットコインは合意装置としての前提を失い、破壊的に価値を失う可能性がある。その場合、価値がゼロになる前に、まず合意が信頼されなくなる。同時に、次世代の仮想通貨(仮にビットコインQと呼ばれるもの)が、初期条件次第では現在のビットコインと類似した時間発展を辿る可能性も理論的には否定できない。
ただし、その成立は保証されていない。初代ビットコインは、攻撃する意味がほとんど存在しない時代に、局所的に始まり、じわじわと拡大することができた。これは設計の強さではなく、構造的脆弱性を運任せで突破できた結果である。その突破に成功したために、現在のビットコインは一種の平衡状態に入っている。この平衡状態そのものが、歴史的に見て希少なのである。
こうした世代交代リスクは、ビットコインの価値を直ちに否定するものではないが、無限の上昇や永続的支配を正当化しない。その結果、現在の価格は、上に向かう圧力と下に向かう圧力が同時に作用する中で成立していると理解できる。それらの圧力は、単なるモーメンタムだけでなく、成立条件の希少性、状態依存的安定性、世代交代の可能性といった要因から生じている。
この地点に立つと、ようやく貴金属、国債、株式、不動産といった他の資産との関係も整理できる。これらはビットコインの代替ではなく、それぞれ異なる評価軸上に位置している。貴金属は物理法則に基づく代替不能性と長期的残存性を持つ一方で、通信による即時授受や可搬性といった機能軸では仮想通貨を代替できない。仮想通貨と貴金属は優劣関係にあるのではなく、異なる成分に異なる重みを持つスペクトルとして理解されるべきである。同様に、国債や株式、不動産もまた、それぞれ異なるリスクと時間軸に対応している。
したがって、ビットコインの現在の価格は、信仰の証明でも、誤謬の結果でもない。それは、分散性・希少性・検閲耐性を同時に満たす電子通貨が、たまたま成立し、たまたま維持されているという運命全体の希少性と、将来の不確実性が同時に織り込まれた結果として、状態依存的に存在している。
その価格をどう評価するか、どのテールリスクをどれだけ重く見るか、どの時間軸を自分の評価関数に入れるかは、各人が決めることである。誰かにとって重要であれば価格がつき、重要でなければ価格がつかない。