金とドルが同時に上がる日は何が起きているのか
金はドルと逆に動く。
そう覚えていると、金とドルが同時に上がる日はかなり気持ち悪く見える。
ニュースでは「ドル高」と言っている。米金利の話も出ている。普通なら金には重しのはずだ。ところが、ドル建ての金価格も崩れず、円建ての金ETFはむしろ強く見える。証券アプリだけを見ると、「逆に動くはずのものが、同じ方向へ走っている」ように見える。
この違和感は、金ETFを見るうえでかなり大事である。
金とドルは、いつも片方が上がれば片方が下がる単純な関係ではない。相場の不安が深い日は、投資家が「すぐ使える逃げ道」と「信用から距離を置く逃げ道」を同時に探すことがある。
金はインフレに強い、は半分だけ正しいで見たように、金はひとつの理由だけで動く資産ではない。ドルとの関係も、逆相関という一枚のメモだけで読むと外れる。
まず、普通はドル高が金の重しになる
金は国際的にはドル建てで取引される。ドルが強くなると、円やユーロなど他の通貨を使う投資家から見た金は高くなりやすい。さらに米金利が上がる局面では、利息を生まない金を持つ魅力が相対的に下がりやすい。
だから「ドル高は金に逆風」と覚えること自体は間違いではない。
ただし、これは平常時の基本形である。相場が比較的落ち着いていて、投資家が金利、ドル、物価を一つずつ評価できるときは、この関係が分かりやすく出やすい。ドルが強く、米金利も上がるなら、金は重くなる。ここまでは素直である。
問題は、市場が落ち着いていない日である。
投資家が「どこへ逃げるか」を一つに決められないとき、ドルと金は敵同士ではなく、別々の役割を持つ避難先として同時に買われることがある。
知識のフック: 金とドルは、昔はもっと直接つながっていた
金とドルの関係を考えるとき、歴史を少しだけ思い出すと見え方が変わる。
かつてはドルと金の交換性が国際通貨体制の中心にあった。しかし1971年のニクソン・ショックで、米ドルと金の交換停止が発表され、現在の金はドルに固定された存在ではなく、市場で価格が動く資産になった。
この歴史を知っていると、「金とドルは完全な反対物である」とは言いにくくなる。金はドル建てで価格が付く一方で、ドルという通貨システムへの不安が強まると買われることもある。つまり、金はドルの外側にあるようで、実際にはドルを通じて値段が見える資産である。
ここが面白いところである。
ドルが強いから金が必ず下がるのではない。ドルが必要とされるほど市場が不安になり、その同じ不安が金にも向かう日がある。
ドルは「支払いの逃げ道」、金は「信用から離れる逃げ道」
金とドルが同時に買われる日は、投資家が同じ理由で両方を買っているとは限らない。
ドルは、世界の決済、担保、借入返済、現金化の中心にある。市場が荒れると、投資家や企業はまずドルを欲しがることがある。値上がり益を狙うというより、支払いに使える流動性を確保したいからである。
一方、金は利息を生まない。しかし、特定の企業の利益にも、特定の国の財政にも、銀行預金の信用にも直接は依存しない。通貨や金融システムへの不安が強いとき、金は「信用から少し距離を置く場所」として見られる。
この二つは似ているようで、役割が違う。
ドルはすぐ使うための逃げ道。金は信用の外側へ少し出るための逃げ道である。
同じ「安全資産」という言葉でまとめると、この違いが消えてしまう。ドルと金が同時に上がる日は、安全資産が一つに決まっている日ではない。避難先が複数に分かれている日である。
円建て金ETFでは、同時上昇がさらに大きく見える
日本の投資家が金ETFを見るときは、もう一段ややこしい。
証券アプリで見ている金ETFは円建てである。つまり、ドル建ての金価格とドル円の両方が効く。
ドル建て金価格が上がり、同時にドル高円安が進むと、円建ての金ETFは二重に強く見えることがある。金そのものが上がった分に、円が弱くなった分が重なるからである。
このとき、ETFの上昇をすべて「金が強い」と読むと誤る。
見えている上昇には、金が買われた分と、円建て表示が押し上げられた分が混ざっている。
金価格が上がっても金ETFが思ったほど上がらない日では、ニュースの金高とETF画面のズレを分けた。金とドルが同時に上がる日も同じで、画面の強さをそのまま金の強さと読まず、ドル建て金、ドル円、ETFの順にほどく必要がある。
同時上昇の日に見る順番
金とドルが同時に上がる日は、まずドル建て金価格を見る。金そのものが本当に買われているのか、それとも円建てETFだけが為替で強く見えているのかを分けるためである。
次にドル円を見る。ドル高円安が進んでいるなら、円建てETFの上昇には為替の押し上げが入っている。これは日本の投資家にとって利益に見えやすいが、同時に円の購買力が落ちているサインでもある。
その次に米金利を見る。米金利が上がっているのに金が崩れないなら、金利の逆風よりも不安の買いが強いのかもしれない。逆に、金利上昇で金が重く、円安だけでETFが上がっているなら、金そのものへの評価とは分けた方がよい。
最後に、株式や信用市場の雰囲気を見る。リスク資産が売られ、ドルも金も買われているなら、市場は「攻めている」のではなく、複数の避難先を同時に探している可能性がある。
同時上昇にも種類がある
金とドルが同時に上がる日でも、毎回同じ意味ではない。少なくとも三つに分けて見たい。
一つ目は、流動性逃避である。市場が荒れて、投資家がまずドルを確保しようとする。ドルは支払い、担保、決済のために必要とされる。この場合、ドル高は「強い米国」というより「現金化の急ぎ」に近い。
二つ目は、信用不安である。銀行、財政、通貨制度、地政学リスクへの不安が強まると、金も買われやすい。これはドルを使うために買う動きとは違い、信用から少し距離を置く動きである。
三つ目は、円安による増幅である。ドル建て金があまり動いていなくても、ドル円が上がれば、日本の円建て金ETFは強く見える。この場合、ETFの上昇には金の強さだけでなく円の弱さが入っている。
この三つを分けると、同時上昇の日の見方は変わる。ドルが強いから金も強い、ではない。ドルが必要とされる理由、金が買われる理由、円建てETFが押し上げられる理由が、それぞれ別に重なっている。
逆相関が崩れた日は、市場の不安が一段深い
金とドルが同時に上がる日は、教科書的な関係が壊れた日ではない。
単純な関係だけでは足りないほど、市場の不安が複数に分かれている日である。
ドルは使うために買われる。金は信用から距離を置くために買われる。円建て金ETFは、その二つにドル円の影響まで重ねて見せる。
だから、金とドルが並んで上がる画面を見たら、「矛盾している」と終わらせない方がよい。
その日は、相場が楽観している日ではなく、避難先が一つでは足りない日かもしれない。
金とドルの同時上昇は、相関が壊れたノイズではない。市場がどの不安から逃げ、どの不安をまだ抱えたままなのかを映す、かなり情報量の多い画面である。