円安で金ETFが上がるとき、日本人は金で勝っているのか円で負けているのか
証券アプリを開くと、金ETFの評価額が増えている。純金信託(1540)も、314Aも、前に見たときより高い。ニュースを見ると、ドル円は円安方向に動いている。
そこで少し安心する。
「金を持っていてよかった。ちゃんと利益が出ている」
しかし、その含み益は本当に金で勝った証拠なのだろうか。円建ての含み益は、金で勝った証拠ではなく、円で測る物差しが縮んだ結果かもしれない。
前の記事では、金先物を見ない金ETF投資が危ない理由として、日本の金ETFがドル建て金価格、ドル円、日本時間の取引に重なって見えていることを整理した。今回は、その中でも円安で増えた利益の見方に絞る。
円で増えたことと、金で勝ったことは同じではない
日本の投資家が金ETFを見るとき、画面に出る評価額は円で表示される。買値も円、現在価格も円、含み益も円である。
だから、円建て価格が上がると「金が上がった」と感じやすい。これは自然な感覚である。毎日の生活も、証券口座も、税金も、ほとんど円で考えるからだ。
ただ、金の国際価格は基本的にドル建てで見られる。日本の金ETFは円建てで売買されるが、その背景にはドル建ての金価格とドル円がある。
つまり、円建ての金ETFが上がる理由は大きく2つに分かれる。
金そのものがドル建てで上がった場合。
そして、金そのものはあまり変わらなくても、円安で円換算の価格が上がった場合である。
どちらも証券アプリでは含み益に見える。しかし、意味はかなり違う。
知識のフック: 金はドル建てで、あなたのETFは円建てで見える
金の国際価格は、一般に1トロイオンスあたり何ドルという形で語られる。ニュースで見る金価格も、多くはドル建ての国際価格である。
一方、日本の金ETFは東証で円建てで売買される。日本の投資家にとっては便利だが、価格の中には為替が入っている。
たとえば、ドル建ての金価格がほとんど動いていなくても、ドル円が大きく円安に動けば、円建ての金価格は上がって見える。逆に、ドル建ての金価格が上がっても、同時に円高が進めば、円建てのETF価格は思ったほど上がらないことがある。
ここで大事なのは、円建てのETF価格が間違っているという話ではない。円で買い、円で売る投資家にとって、円建て価格は実際の取引価格である。
ただし、それをそのまま「金で勝った」と読んでしまうと、為替で起きた変化を金の成果だと誤解する。
円安の利益は、うれしいけれど少し苦い
円安で金ETFが上がると、口座の評価額は増える。これは事実である。利益が出ていること自体を否定する必要はない。
ただ、その利益には少し苦い部分がある。
円安でETF価格が上がったということは、同じ円で買える外貨建てのものが減ったということでもある。海外製品、輸入品、エネルギー、食料、海外旅行。円の購買力が下がる場面では、円建て資産の数字が増えても、生活感覚としては豊かになった感じが薄いことがある。
金ETFの含み益が増えているのに、なぜかあまり勝った気がしない。そういう日がある。
それは、金が大きく伸びたからではなく、円という物差しが短くなったことで、同じ金が高く測られているだけかもしれない。
見る順番を変えると、利益の意味が分かれる
円安の日に金ETFを見るなら、最初にETF価格を見ない方がよい。
まず、ドル建ての金価格を見る。金そのものが上がっているのか、横ばいなのか、下がっているのかを確認する。
次に、ドル円を見る。円安がどれくらいETF価格を押し上げていそうかを考える。
最後に、円建てのETF価格を見る。ここで初めて、含み益が金の上昇から来ているのか、為替から来ているのか、あるいは両方なのかを分けて考えられる。
この順番にすると、同じ含み益でも見え方が変わる。
ドル建て金価格が上がり、円安も進んでいるなら、金と為替の両方が効いている。
ドル建て金価格が横ばいで、円安だけが進んでいるなら、円建ての利益は主に為替の影響である。
ドル建て金価格が下がっているのに、円安でETFがあまり下がっていないなら、為替が下落を隠している。
どれも「ETFが上がった」「ETFが下がった」だけでは分からない。
金で勝ったのか、円で負けたのか
この問いは、少し意地悪である。実際には、金で勝った面と、円で測る物差しが縮んだ面が同時に起きることも多い。
だから、答えを一つに決める必要はない。
ただ、問いを持っておく意味はある。
円建ての金ETFが上がったとき、「自分は金の値上がりを取れたのか」「円安から身を守れただけなのか」「円の購買力低下を数字上の利益で相殺しているだけなのか」を分けて考える。
この分け方がないと、金ETFの含み益はすべて良いニュースに見えてしまう。だが、円安による上昇は、口座にはプラスでも、生活全体では必ずしも純粋な勝ちではない。
まとめ
円安で金ETFが上がると、証券アプリ上では利益が増える。だが、その利益は金そのものの上昇だけでできているとは限らない。
金の国際価格はドル建てで見られ、日本の金ETFは円建てで取引される。この間にドル円が入る。だから、円建ての含み益は、金で勝った証拠ではなく、円で測る物差しが縮んだ結果かもしれない。
次に金ETFの評価額が増えていたら、すぐに喜ぶ前に順番を変えて見る。ドル建て金価格、ドル円、円建てETF価格。この3つを分ける。
その一手間で、利益の中身が見える。金で増えたのか、円安で増えて見えたのか。そこを分けて読むことが、円建てで金ETFを持つ投資家の最初の防御になる。