金を買うなら円建てとドル建てのどちらを見るべきか
証券アプリで金ETFを見る。円建ての価格は上がっている。含み益も増えている。ニュースでは「金価格は高値圏」と書かれている。
そこで、ドル建ての金価格を開いてみる。思ったほど上がっていない。あるいは、少し下がっている日すらある。
このとき、多くの人は少し混乱する。
「金は上がっているのか、下がっているのか。結局、どちらの価格を見ればいいのか」
答えを一つに決めようとすると、かえって見えにくくなる。円建ては生活者の実感に近い。ドル建ては金そのものの動きに近い。どちらか一方ではなく、役割を分けて見る必要がある。
前の記事では、円安で金ETFが上がるとき、日本人は金で勝っているのか円で負けているのかとして、円建ての含み益に為替が混ざることを見た。今回は、その一歩手前に戻って、金を見るときの物差しそのものを分ける。
円建て価格は、自分の口座に近い
日本の投資家が実際に売買する金ETFは、円建てで表示される。買うときも円、売るときも円、含み益も円である。
だから、円建て価格を見る意味は大きい。生活費、税金、証券口座の評価額、将来使うお金。日本で暮らしている限り、多くの判断は円で行われる。
円建てで金ETFが上がっているなら、少なくとも証券口座の上では評価額が増えている。これは現実である。ドル建てではあまり動いていないからといって、円建ての含み益が無意味になるわけではない。
ただし、円建て価格には金そのものの動きだけでなく、為替が入る。
ドル建ての金が横ばいでも、円安になれば円建ての金価格は上がる。逆に、ドル建ての金が上がっても、同時に円高が進めば、日本の金ETFは思ったほど上がらないことがある。
円建て価格は、自分の口座には近い。しかし、金そのものだけを見ているわけではない。
ドル建て価格は、金の国際的な体温に近い
金のニュースでよく出てくる国際価格は、基本的にドル建てで語られる。1トロイオンスあたり何ドルという価格である。
このドル建て価格を見ると、金そのものに対して世界の市場がどう反応しているかをつかみやすい。米金利、ドル、地政学リスク、中央銀行の買い、インフレへの不安。こうした材料が、まずドル建ての金価格に表れやすい。
もちろん、ドル建て価格も完全な「金の本質」ではない。ドルという通貨で測っている以上、ドルの強弱の影響を受ける。それでも、日本の円建てETF価格よりは、為替の層が一つ少ない。
円建て価格は、ドル建て金価格にドル円が重なったものとして見える。だから、金そのものが強いのか、円が弱いのかを分けたいときは、まずドル建てを見る方がよい。
ドル建て価格は、生活者の実感からは少し遠い。だが、金そのものの動きには近い。
知識のフック: 金はドルで語られ、日本の損益は円で出る
金は世界中で取引される商品だが、国際的な価格表示ではドル建てが中心になる。ニュースや市況解説で「金が上がった」「金が下がった」と言うとき、多くの場合はドル建ての金価格を指している。
一方、日本の投資家が東証の金ETFを持つと、評価額は円で表示される。日本の証券口座では、ドル建ての金価格がそのまま損益になるわけではない。
ここに二重構造がある。
世界では、金はドルで語られる。
日本の投資家の口座では、金は円で損益になる。
この二重構造を知らないと、ニュースの金価格と自分のETF価格が違う動きをしたときに、どちらかが間違っているように見える。しかし、実際には見ている層が違う。
ドル建ては、金の国際的な値動きに近い。円建ては、日本の投資家が実際に受け取る損益に近い。
どちらを見るべきかではなく、順番を決める
「円建てとドル建てのどちらを見るべきか」と考えると、片方を正解にしたくなる。
しかし、金ETFを見るときに必要なのは、正解を一つ選ぶことではない。見る順番を決めることだ。
まずドル建ての金価格を見る。金そのものが世界で買われているのか、売られているのかを確認する。
次にドル円を見る。円安で円建て価格が押し上げられているのか、円高で金の上昇が消されているのかを見る。
最後に円建てのETF価格を見る。自分の口座にどう表れているのか、理論価格からのズレや出来高、スプレッドも含めて確認する。
この順番にすると、同じ値上がりでも意味が分かれる。
ドル建て金価格も上がり、円建てETFも上がっているなら、金そのものの強さが口座にも出ている。
ドル建て金価格は横ばいで、円建てETFだけが上がっているなら、主役は為替かもしれない。
ドル建て金価格は上がっているのに、円建てETFが重いなら、円高や取引時間、流動性を疑う必要がある。
「上がった」「下がった」だけではなく、「何で上がったのか」を分けるために、円建てとドル建てを両方見る。
円建てだけを見ると、生活実感には近いが理由がぼやける
円建て価格だけを見ていると、判断は分かりやすい。自分の評価額が増えたか減ったかがすぐ分かる。
ただ、その分、理由はぼやける。
円建ての金ETFが上がった日に、金そのものが強かったのか、円が弱かったのか、あるいは両方なのかを見落としやすい。評価額が増えているときほど、その内訳を分ける作業は後回しになりやすい。
特に円安局面では、円建て価格の上昇が安心感を作ることがある。だが、その安心感が、金の強さから来ているのか、円の弱さから来ているのかでは意味が違う。
円建ては生活者の実感である。だが、生活者の実感だけで金そのものを判断すると、為替を金の実力だと読み違える。
ドル建てだけを見ると、口座の痛みを見落とす
逆に、ドル建て価格だけを見ても十分ではない。
ドル建ての金価格が上がっていても、円高が進めば、日本の金ETFの上昇は小さくなることがある。場合によっては、ドル建てでは強いのに、自分の口座ではあまり増えていないように見える。
このとき「金は上がっているのだから問題ない」と考えると、円建てで投資している自分の損益を見落とす。
日本で円を使って暮らし、円建てETFを売買するなら、最終的な損益は円で出る。ドル建て価格は金そのものの動きを知るために重要だが、それだけでは自分の投資結果には届かない。
ドル建ては金の動きに近い。だが、口座と生活には円建てで戻ってくる。
最初の画面に戻る
もう一度、証券アプリの画面に戻る。
円建ての金ETFが上がっている。以前なら、それだけで「金が強い」と思ったかもしれない。
しかし、今は少し見え方が変わる。
まず、ドル建ての金価格はどう動いたのか。次に、ドル円はどう動いたのか。最後に、その結果が円建てETFにどう表れたのか。
この順番で見ると、円建ての値上がりは一つの数字ではなく、金と為替が重なった結果として見える。
円建ては生活者の実感、ドル建ては金そのものの動きに近い。どちらかを捨てる必要はない。見る役割を分ければよい。
まとめ
金を買うなら、円建てとドル建てのどちらを見るべきか。
答えは、目的によって違う。金そのものの動きを知りたいなら、まずドル建てを見る。自分の口座や生活にどう効くかを知りたいなら、円建てを見る。
金は国際的にはドル建てで語られ、日本のETF保有者は円建てで損益を見る。この二重構造があるから、片方だけでは見え方が偏る。
次に金ETFを見るときは、円建て価格だけで判断しない。ドル建て金価格、ドル円、円建てETF価格の順に見る。
円建ては生活者の実感。ドル建ては金そのものの動きに近い。この二つを分けて見るだけで、金ETFの値動きはかなり読みやすくなる。