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market-analysis2026-08-06

島国の調達力は、商社ではなく「海の秩序」でできていた

Written by metal
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連載「戦後日本の膨張と収縮」第4回

中国への依存が問題になると、地図の上にはすぐ代替先が見つかる。

ベトナム、インド、オーストラリア、中東、南米。鉱山も工場も農地も、中国の外に存在している。それなら仕入れ先を分散すればよい、と考えたくなる。

だが、地図に供給国があることと、その商品が必要な日に日本の工場へ届くことは同じではない。

契約した銅鉱石は港まで運ばれ、船に積まれ、海峡を通り、保険を付け、ドルで決済され、日本の港で荷揚げされる。どこか一つが止まれば、鉱山に銅があっても日本には届かない。

調達先の多さは地理の問題だが、調達力は秩序の問題である。

日本の貿易量の99.6%は海を通る

国土交通白書によると、日本の貿易量の99.6%は重量ベースで海上輸送が担っている。航空貨物は高価で軽い製品には向くが、原油、鉄鉱石、石炭、穀物を国全体が使う量で運ぶことはできない。

船があれば十分というわけでもない。

船員、港湾、荷役設備、船舶燃料、修理拠点がいる。航路上の海峡が通れなければ迂回が必要になり、航海日数と必要船腹が増える。攻撃や拿捕の危険が高まれば、保険料が上がるか、保険を付けられなくなる。

輸入価格は、産地の値段に運賃を足しただけの数字ではない。安全に届く確率にも値段が付いている。

商品より先に、信用が国境を越える

さらに意外なのは、船より先に金融が必要なことである。

WTOは、世界貿易の80%から90%が、信用供与や保険・保証を含む貿易金融に依存するとしている。売り手は代金を確実に受け取りたい。買い手は商品を確認する前に全額を払いたくない。その時間差を、銀行の信用状、保険、保証が埋める。

制裁、資本規制、銀行不安、通貨不足が起きれば、商品が存在していても取引は止まり得る。

「別の国から買う」という一文の裏には、その国の港から日本まで続く銀行、保険会社、船会社、決済網の連鎖がある。商社が強いのは、電話一本で商品を見つけるからではない。この連鎖を組み直せるからである。

生産能力にも同じ問題がある。別の国に工場が存在していても、その設備が空いているとは限らない。長期契約で他社に押さえられていたり、日本の品質規格に合わなかったり、増産に必要な電力や部品が足りなかったりする。

代替供給先とは、同じ商品名を作れる国ではない。必要な品質と数量を、必要な時期に追加できる余力まで含めた存在である。

海の自由は、自然現象ではない

平時には、船が公海を通れることを海の性質のように感じる。

実際には、航行の自由、海賊対処、港湾ルール、遭難救助、海底通信、紛争の抑止を、多数の国家と機関が支えている。防衛白書も、海洋秩序とシーレーンの安定的利用を日本の安全に不可欠なものとして位置付けている。

戦後、その中心で大きな軍事的負担を引き受けてきたのは米国だった。ただし、秩序を米国だけの所有物と考えるのも正確ではない。沿岸国、海運国、国際機関、各国海軍、民間の保険・金融が重なって初めて航路は使える。

だから、米国の相対的な力が弱まれば翌日から船が止まる、という単純な話ではない。問題は、警備や紛争抑止の費用を誰が補い、保険可能な航路を維持するかである。

分散は必要だが、平時より高くなる

調達先の分散に意味がないわけではない。

一つの国の工場停止、輸出規制、政治判断で全量が止まる危険は減らせる。在庫を積み、複数社と契約し、製品設計を標準化すれば、供給途絶への耐性は上がる。

ただし、分散は通常、最安値ではない。

複数の認証、少量契約、余分な在庫、重複設備、長い航路を維持するからである。効率だけを追えば供給網は一か所へ集まり、耐久性を求めれば平時の費用は上がる。

この追加費用は無駄ではない。非常時にも選択肢を残すための保険料である。

日本は資源の乏しい島国だから貿易したのではない。貿易できる秩序があったから、資源の乏しい島国に一億人を超える産業社会を築けた。

世界地図には、代わりの供給者がいくらでも見つかる。

その点と点を、実際の供給へ変える線だけは、地図に印刷されていない。

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